かつて、私もゼロを作ったことがある。
大学に入る前に広告って面白いな、と思い始め、大学の門の前で派手に勧誘をしていた広告研究会に、一秒も検討することもなく入った。自分から「入りたいんですけど」と言ってきたのは、自分だけだった、と後で聞いた。広告を、作ってみたかった。
当時活動の中心となっているのは「学生イベント」であった。「制作」といわれたチームは二チームだったが、誰かに「教えてもらう」ことはできなかった。自分でコピーライターの本、アートディレクターの本などを読み、TCC年鑑の存在を知り、図書館に見に行って勉強していた。
「本格的な、グラフィック広告制作チームを作る」
二年生に上がる直前、私は会議の場で主張した。
小中と、学級委員や生徒会に参加したこともなく、部活の部長になったこともなかった。リーダーというものの経験は全くない。しかし、自分がやりたいことができないなら、作るしかない。
作るのは自由。特に反対もなく、設立は決まった。ただし、先輩はいない。昨年度、なんらかの制作の実績は、この会にはない。一番上が、もうすぐ二年生になる自分だった。
私の作った、グラフィック広告チームは、春に36人の一年生が入って、上々のスタートを切った。説明会での私は、ずいぶんカッコイイことを言っていたらしい。それにひかれてたくさん入ってきた、と後で聞いた。
当たり前だ。本で読んだクリエイター達の言葉の受け売りだったのだから。メッキは、早々に剥げる。
活動の柱は、東京広告協会が主催し、大手広告会社Hのクリエイター審査する「学生広告制作講座」(実際にある商品を課題に、TVCMやグラフィック広告を作るというもの)宣伝会議賞、読売広告賞、朝日広告賞に、参加応募することだった。それも、今まで一切参加してこなかったものだ。「学生広告制作講座」は、私が一年生のときに先輩から存在を知らされ、経った一人で参加した。(結果、三位入賞)
しかし、36人を一人でまとめる力は自分になかった。夏を過ぎると、一年生は10人くらいに減り、秋になると、6人になった。二年生も顔を出さなくなる。途中で解散したインターネット広告チームを吸収しても、8人というありさまだった。
大手を振ったわりには、失敗しやがったと、上からの風当たりも強い。逃げたくなることだらけだった。
自分は、ここがサークルであることを忘れていた。自分の、コピーライターになりたい、という願望の強さのあまり、サークルの楽しさを提供していなかった。遊び下手で、下戸が災いした。イベントチームや映像チームは、みんなで遊びに行ったり、飲みに行くという「大学生活全体」をサポートできていて、大勢の人間を残せていた。
遊び下手なら、遊び上手なやつにアイディアをもらえばいい。下戸なら、酒以外で盛り上げられるような人間になればいい。勝手に一人で背負って行き詰まっているのだから世話はない。
ただ、残った六人は、みんなやる気だった。週に二回の活動に顔を出してくれて、アイディアを出し合い、徹夜して作り上げる。結局、宣伝会議賞から、読売広告賞、朝日広告賞にまで応募し切って、全く賞はとれなかったが、活動の履歴を作ることができた。
学年があがる時に、一人の後輩が、手を上げた。
「私が、制作チームを継ぎます。」
彼女は、T女子大学から来ていた。
彼女は、遊びが上手で、酒の席でも明るく、周りを盛り上げる。人にも好かれやすい。ただ、物理的な距離が、負担になることは明かだった。週二回、活動の準備をして、大学の授業後に駆けつける。その負担は大変なものだ。それでも、やると言ってくれる。
嬉しかった。
彼女がリーダをしてから、グラフィック広告チームは発展を遂げた。人の数も増え、できあがってくるものの質も、明らかに向上した。さらに翌年も後を継ぐ人間ができて、いまだにグラフィック広告チームは、広告研究会の中に存在し、活動を「商店街の広告活動」や三大学合同批評会と広げ、まずまず発展している。
私の名前は、もう忘れられている。私のあとにリーダーとなった女性の名前は知られているが、私はもう、「1」を支える存在となって、埋もれた。先日、頼みごとがあって顔を出したが、私を知る者はなく、名乗っても「お名前はかねがね…」と言う者もいなかった。
しかし、活動をしている後輩達を見て、「あの時俺が手を上げなかったら、絶対に今はなかった」と思える。あの1年間で見ると失敗だったが、あれから5年経って、見事に成功している。
これでいい。もう誰にも見えない、誰も見ようとはしないが、確実に自分の痕跡は残っている。
ゼロを作るには、大量のエネルギーがいる。耐えることも、悩むことも多い。その割に、注目はされにくい。周りからすれば、損な役回りだ。
でもね、ゼロを作った人間には、失敗を恐れない精神と、周囲の攻撃に耐える頑丈さと、その後の未来を、誰よりも楽しめる権利が与えられるのだよ。
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